阪大物理
'10
年後期
[3]
光の干渉現象を利用した物体の移動距離の測定について考察しよう。
T.図
1
に示すように、レーザー光源から出た光をハーフミラー
H1
に入射する。ハーフミラーは入射した光のうち一部を反射し、残りを透過する装置である。光路
1
は、
P1
,
P2
,
P3
,
P2
,
P5
を通り光検出器に至る経路である。また光路
2
は、
P1
,
P4
,
P5
を通り光検出器に至る経路である。光路
1
を通る光
(
光線
1)
は、
H1
およびハーフミラー
H2
を透過した後、移動体に固定された反射鏡
M2
によって反射される。さらに
H2
で反射されて下方に進み、ハーフミラー
H3
を透過した後、光検出器に入射する。一方、光路
2
を通る光
(
光線
2)
は、
H1
で反射された後、反射鏡
M1
および
H3
によって反射されて光検出器に入射する。光検出器では、光線
1
と光線
2
は干渉した光の明るさ
(
光の強度
)
を検出する。移動体を動かすと干渉した光の強度が変動する。これによって、移動体の移動距離を測定することができる。レーザー光源から
H1
までの距離は
,
H1
から
H2
までの距離および
M1
から
H3
までの距離は等しく
,
H1
から
M1
までの距離および
H2
から
H3
までの距離は等しく
である。レーザー光の波長を
として、以下の問いに答えよ。ただし、ハーフミラーはいずれも厚さが無視できるものとする。また、光線
2
を遮断して光線
1
のみを光検出器に入射したときの強度と、光線
1
を遮断して光線
2
のみを光検出器に入射したときの強度が同じになるよう、ハーフミラーの反射率および透過率を調整してある。
問
1
移動体の上にある反射鏡
M2
の位置を
x
座標で表す。ただし、
H2
から距離
d
の位置を原点
(
)
とし、右向きを正にとる。
M2
が位置
x
にあるとき、光線
1
と光線
2
の光路長の差
(
光路差
)
を
,
,
,
d
および
x
のうち適切なものを用いて表せ。
問
2
M2
が
H2
より
d
の距離
(
)
にあるとき、光線
1
と光線
2
はちょうど同位相となって強めあった。光がハーフミラーおよび反射鏡の表面で反射するときは固定端反射となり、入射光と反射光が逆位相となる。光線
2
は光線
1
より反射する回数が
1
回多いため、光線
1
と光線
2
の光路長が等しいときは逆位相になって弱め合う。このことを考慮して、
d
の満たすべき条件を
,
,
,
のうち適切なものと整数
m
(
)
を用いて表せ。
問
3
M2
の位置
x
を変化させて、光検出器によって検出される光の強度
(
干渉光強度
)
I
を測定した。このとき
I
は、
を定数として、以下に示す式で表されることがわかった。
(a)
式
(a)
中の
ϕ
は、光線
1
と光線
2
の光路差によって生ずる光の位相の差を表しており、光線
1
と光線
2
の位相差と呼ぶ。
ϕ
を
,
,
,
および
x
のうち適切なものを用いて表せ。
問
4
M2
が位置
x
にあるとき、干渉光強度
I
はちょうど
であった。その後、
M2
を
(
)
に移動させたとき、
I
は単調に減少して
0
となった。このときの移動距離
を求めよ。ただし、レーザー光源の波長を
(
)
とする。解答の数値は単位を
nm
として有効数字
3
桁で求めよ。
U.次に、図
2
に示すように、反射鏡
M1
とハーフミラー
H3
の間に光の振動数をわずかに変化させる素子
(
周波数シフター
)
を挿入した。周波数シフターは、振動数が
の光を、
よりわずかに大きい振動数
の光に変換することができる。以下の問いに答えよ。ただし、周波数シフターの効果は振動数の変化だけであり、光線
2
の強度および光路長は変化させないものとする。
問
5
振動数が少しだけ異なる
2
つのおんさを同時に鳴らすと、うなりの現象が起こり、音の大きさが周期的に変化して聞こえる。光も音と同様であり、異なる振動数をもつ
2
つの光を重ね合わせると、うなりの現象が起こり、時間とともに変化する光強度
(
光のうなり
)
が観測される。図
2
の光検出器で検出される光のうなりの周期
を、
および
を用いて表せ。
問
6
以下の文中の
に適切な数式または数字を解答欄に記入せよ。
時刻
において、
M2
が
にあるとき、光線
1
と光線
2
が同位相で重なり合ったとする。このとき、図
2
の光検出器で検出される干渉光強度
I
は、時間
t
,
および
を用いて、
(b)
と表すことができる。レーザー光線として
の赤色の光を用い、周波数シフターで光線
2
の振動数が
となるとき、
1
秒あたりのうなりの回数は
となり、光強度の時間変化を検出することが可能となる。光線
1
の波長は
,光線
2
の波長は
であり、その差は
程度である。このように光線
1
と光線
2
の波長の差は非常に小さいため、波長による位相の差は生じないとすることができる。このことを考慮すれば、時刻
において、
M2
が位置
x
にあるときの干渉光強度
I
は、時間
t
,
,
および問
3
の式
(a)
における光線
1
と光線
2
の位相差
ϕ
を用いて、
(c)
と表すことができる。したがって、
M2
が
にあるときの干渉光強度で、
M2
が位置
x
にあるときの干渉光強度を、同時に測定できるように装置を工夫すれば、二つの時間波形の位相差を検出することにより、移動距離をより高精度に測定することができる。
問
7
M2
は
にあるとき、干渉光強度
I
の時刻
からの時間変化のようすをグラフに描け。なお、解答用紙のグラフに示してある曲線は、同時に測定された
M2
が
にあるときの干渉光強度の時間変化である。
問
8
検出できる最小の位相差が
であるとき、光のうなりを利用した方法で測定できる
M2
の最小移動距離を求めよ、ただし、波長は
を用いることとし、解答の数値は
nm
を単位として有効数字
3
桁で求めよ。
解答
難問というわけではないのですが、「
位相
」や「うなり」について完全に理解していないと答えられません。
周期
T
,
波長
λ
,
振幅
A
の
時刻
t
,
位置
x
における
変位
y
は、
初期位相
を
δ
(
のときの
位相
)
として、
(
正弦波の式
を参照
)
で与えられます。
x
軸正方向に進む正弦波では複号がマイナス,
x
軸負方向に進む正弦波では複号はプラスを採ります。この中カッコの中が「
位相
」です。
周期
は波
1
個分の
時間
、
波長
は波
1
個分の
距離
ですが、波
1
個分の
位相
は
です。
は波何個分か、ということを表していて、これに
をかけると「
位相
」になるわけです。
T.問
1
光路
1
の
長さ
は、
光路
2
の
長さ
は、
光線
1
と光線
2
の
光路長
の差
(
光路差
)
は、
......[
答
]
問
2
のときの
光路差
は、
です。このとき、光線
1
と光線
2
が
同位相
で強め合う条件は、
光路長
が等しいときに
逆位相
になることを考慮して、
光路差
が
波長
の整数倍から
半波長
だけずれることであって
(
波の干渉
を参照
)
、
(
) ......[
答
]
問
3
光線
1
が固定端で
2
回反射していることを考慮して、光線
1
の
位相
は
,光線
2
は固定端で
3
回反射しているので、光線
2
の
位相
は
(
波の反射
を参照
)
,光線
1
と光線
2
の
位相差
ϕ
は、
(
∵
問
1)
(
∵
問
2)
位相
から
の整数倍を除いても、
変位
は変わらないので、求める
位相差
は、
......[
答
]
注.上記のように、
距離
を
波長
で割って
をかけたものが
位相
です。
m
を整数として、
なので、
位相
のうち
の整数倍を除いても、正弦波の
変位
は変わりません。
問
4
M2
が
位置
x
にあるときに光線
1
と光線
2
は
同位相
になっていました。
M2
を
に移動させたときに
干渉光強度
が
0
になるということは、このときに光線
1
と光線
2
が
逆位相
になるということなので、問
3
の結果で、
とすると、
位相差
ϕ
は
π
になります。
∴
......[
答
]
U.問
5
光のうなりの
振動数
(1
秒あたりのうなりの回数
)
は、
です。光のうなりの
周期
は、
......[
答
]
問
6(1)
かつ
のときに光線
1
と光線
2
が
同位相
なので、
時間
に対応する
位相差
は、
......[
答
]
注.問
3
と同様に、
時間
を
周期
で割って
をかけたものが
位相
になります。
(2) 1
秒あたりのうなりの回数は、
......[
答
]
(3)
なので、問
5
では、うなりの回数を、光線
2
の
振動数
から光線
1
の
振動
数
を引く、として計算しました。光線
1
に対する光線
2
の
位相
を考えることになります。
M2
が
位置
x
にあるときの
位相
のズレは問
3
の
ϕ
なのですが、
距離
の分だけ光線
1
が光線
2
に対して遅れるので、光線
2
の方は逆に光線
1
に対して
ϕ
だけ
位相
が進むことになります。よって、
M2
が
位置
x
にあるときの
位相差
は、
......[
答
]
注.光速を
として、
です。光源から光検出器までの光路
1
の
距離
を
として、光線
1
の正弦波の
変位
は、
・・・@
として、光線
2
の正弦波の
変位
は、光源から光検出器までの光路
2
の
距離
を
とし、
位相
が
π
ずれることを考慮して
(
問
3
では
としているので、光線
2
に対する光線
1
のズレを考えていますが、ここでは、
とするので、光線
1
に対する光線
2
のズレを考えます
)
、
・・・A
両波を重ね合わせると、
・・・B
(
和を積に直す公式
を利用
)
問題文にあるように、
,
の差が小さく、
(
∵
問
1)
問
3
の計算を用いて、
Bの
は、
振動数
の正弦波を意味しています。Bの
の部分が波の
振幅
に相当し、
となりますが、これは、
振動数
の正弦波を表していて、これが、うなりに相当します。
振動数
がうなりの
振動数
の
になっていますが、これは、人間の感覚が、うなりを光や音の
強度
で感じるためです。波の
強度
は
振幅
の
2
乗に比例することが知られています。
(
半角の公式
を参照
)
より、波の強度、つまり、うなりの
振動数
は
となります。また、この式から、うなりの
位相差
は
ϕ
であることがわかります。この式の右辺の中カッコ内が光線
1
と光線
2
の
位相差
を表していて、
時刻
t
を
時間
に代え、
となります。
問
7
問
6
問題文の「二つの時間波形の位相差」を実際に確かめてみようという問題です。問
3
の結果で
として、
問
6(3)
の
位相差
は
となります。
このグラフは、
M2
が
にあるときの
干渉光強度
:
のグラフを
周期分だけ時間軸と逆の方向にずらせたグラフになります。図示すると右図実線。
問
8
問
3
の結果を用いて、
......[
答
]
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2005-2022
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