東京工業大学
2009
年前期数学入試問題
[1]
点
P
から放物線
へ
2
本の接線が引けるとき、
2
つの接点を
A
,
B
とし、線分
PA
,
PB
およびこの放物線で囲まれる図形の面積を
S
とする。
PA
,
PB
が直交するときの
S
の最小値を求めよ。
[
解答へ
]
[2]
実数
a
に対し、次の
1
次変換
を考える。以下の
2
条件をみたす直線
L
が存在するような
a
を求めよ。
(1)
L
は点
を通る。
(2)
点
Q
が
L
上にあれば、その
f
による像
も
L
上にある。
[
解答へ
]
[3]
N
を正の整数とする。
以下の正の整数
m
,
n
からなる組
で、方程式
が
N
以上の実数解をもつようなものは何組あるか。
[
解答へ
]
[4]
xyz
空間の原点と点
を通る直線を
とする。
(1)
上の点
を通り
と垂直な平面が、
xy
平面と交わってできる直線の方程式を求めよ。
(2)
不等式
の表す
xy
平面内の領域を
D
とする。
を軸として
D
を回転させて得られる回転体の体積を求めよ。
[
解答へ
]
各問検討
[1]
(
解答は
こちら
)
2009
年の東工大入試は、どうやら、数学は満点続出のようです。こういうときは英語の出来で大きく左右してしまうので、数学を得意科目にしていた受験生には気の毒なことになったのではないかと思います。その極めつけが本問です。
2
次関数で表される放物線の異なる
2
接線の交点の
x
座標が、
2
接点の
x
座標の相加平均になることは、ほぼ常識のようなことです。そして、この
2
接線と放物線とで囲まれる部分の面積を、この交点を通り
x
軸に垂直な直線で
2
つに分けて計算することや、面積計算に出てくる定積分を、
のようにして計算することも、東工大レベルであれば、知らないでは許されない必須技巧です。
こうした問題でこわいのは、ケアレス・ミスです。
2009
年の東工大の数学では、
4
問完答した受験生でも時間が余ったでしょうから、余った時間でどれほどしっかりと見直しを行ったか、ということが重要だったと思います。日頃の勉強の時から、最終解答を書き終えたところで安心してしまわないで、問題文を
1
度読み直し、問題文の要求に沿った解答をしているかを確認し、少なくとも数十秒程度、解答の流れを見直す、というクセをつけておいて頂きたいものです。
[2]
(
解答は
こちら
)
行列
A
の表す
1
次変換における不動直線を、固有値、固有ベクトルを使って考えてみます。
行列
A
が固有値
a
をもち、この固有値に対する固有ベクトルが
だとします。つまり、
このとき、ベクトル方程式:
で与えられる直線
上の点は、
より、直線
上に移るので、直線
はこの
1
次変換について不動直線になります。直線
は原点を通る直線です。
今度は、行列
A
の表す
1
次変換が原点を通らない不動直線
をもつとします。原点を通り方向ベクトルが
の直線と直線
との交点の位置ベクトルは、
s
を
0
でない実数として、
と表せます。不動直線
の方向ベクトルを
とすると、
のベクトル方程式は、
t
を実数の変数として、
(
u
,
v
は実数
)
として、
上の点は
1
次変換により、
に移りますが、これが直線
上の点であるためには、
これが、任意の実数
t
にかかわらず成立するためには、恒等式の条件より、
より、
,また、
となります。
のときには、
も固有値
1
に対する固有ベクトルとなってしまうので、別に考える必要があります
(
後述
)
。
のときには、
と
は
1
次独立で、
1
次変換が原点を通らない不動直線
をもつとき、行列
A
は固有値
1
を持ち、もう
1
つ、
1
以外の固有値
v
を持てば、不動直線
の方向ベクトルは、
v
に対する固有ベクトルになります。
不動直線は多くの問題では原点を通る直線になるのですが、東大理系
'82[1]
に次の問題があります。
行列
によって定まる
xy
平面の
1
次変換を
f
とする。原点以外のある点
P
が
f
によって
P
自身にうつされるならば、原点を通らない直線
であって、
のどの点も
f
によって
の点にうつされるようなものが存在することを証明せよ。
原点以外の不動点
P
が存在するとき、
として、
・・・@
が成り立ちます。これは、行列
A
が固有値
1
をもつ、という意味です。なぜかと言うと、
ですが、逆行列
が存在するときには、左から
をかけると、
となって、
P
が原点に限られてしまうので、
は存在せず、
でなければなりません。これは、固有方程式:
に
を代入すると
0
になるということで、行列
A
は固有値
1
をもちます。このとき、行列
A
のもう
1
つの固有値を
k
として、
・・・A
となります。
のときには、
と
は
1
次独立です。なぜなら、
(
u
は実数
)
と書けたとすると、
,
(
)
という矛盾が生じるからです。
このとき、
s
を任意の実数の定数として、
とすると、ベクトル方程式:
で与えられる直線
(
原点を通らない
)
を考えると、
より、
となり、
上の点が
上に移ることがわかります
(
前述のように、
は不動直線です
)
。
のとき、
なので、位置ベクトルが
となる点は不動点です。
の場合
(
固有値
1
が重解
)
には、
と
1
次独立なベクトルを
(
何でもよい
)
として、
・・・B
とおくと、ハミルトン・ケーリーの定理より
なので、
となるはずですが、
,
は
1
次独立なので、
,Bより、
これより、ベクトル方程式:
で与えられる直線
(
原点を通らない
)
を考えると、
となり、やはり
上の点が
上に移ります。但し、
のときには、任意の
t
について
なので、不動点は存在しません。
東大の問題では不動点が存在しましたが、東工大の本問の条件
(1)
で
が不動点であれば、行列
が固有値
1
をもって
より、
のときに、東大理系
'82[1]
の問題文により、条件をみたす直線
L
が存在します。このとき、
ですが、
より、
A
は固有値
1
,
2
をもちます。
より、固有値
1
に対する固有ベクトルは
より、固有値
2
に対する固有ベクトルは
固有値
1
が重解ではないので、不動直線は、
s
を任意の実数の定数、
t
を実数の変数として、ベクトル方程式:
で与えられます。
t
を消去して、
これが
を通るとき、
より
,不動直線は、
となります。
東工大の問題の行列
A
が固有値
1
を重解にもつことはありませんが、固有値
1
を重解にもつ行列、例えば、
の不動直線を考えてみます。
より、固有値
1
に対する固有ベクトルは
と
1
次独立なベクトル、例えば
をもってくると、不動直線は、ベクトル方程式:
で与えられます。
t
を消去して
を通る不動直線は、
になります。この場合には、行列
A
の表す
1
次変換により不動直線上の点
は
より、
に移るので、不動点は存在しません。
を通る不動直線は存在します。
上記以外の場合では、不動直線が原点以外の点を通過する場合はありません。従って、
以外に
を通過する不動直線が存在すれば、その不動直線は、原点を通過することになります。
と原点を通過する直線は
(
y
軸
)
です。最初の方に書いたように、このとき、行列
A
は固有ベクトル
をもちます。
//
より、
のときにも、条件をみたす直線
L
が存在します。
のとき、
です
(
行列
A
は対角成分のみを持ち、いずれも
2
なので、重解の固有値
2
を持ちます
)
が、任意のベクトル
について、
となるので、実は、固有ベクトルは任意のベクトルになっています。つまり、原点を通る任意の直線が不動直線になります。
参考までに、
のときには、固有方程式:
より、
A
は異なる
2
個の固有値
2
,
(
)
を持ちます。
より、固有値
2
に対する固有ベクトルは、
より、固有値
に対する固有ベクトルは、
このときには、原点を通る直線:
,
が不動直線
(
点
は通りません
)
になります。
整理すると、原点以外の点
P
を通過し、原点を通らない不動直線が存在するのは、
(i)
行列
A
が重解でない固有値
1
をもつとき、もう一方の固有値に属する固有ベクトルに平行な直線で点
P
を通過する直線が不動直線になる。点
P
は不動点になる。
(ii)
行列
A
の固有値
1
が重解になるとき、固有ベクトルに平行な直線で点
P
を通過する直線が不動直線になる。点
P
は不動点ではない。
の場合で、
(iii)
行列
A
が固有値
1
を持たないときには、不動直線は原点を通る。
東工大の本問の場合であれば、
(i)
の場合が
,
(ii)
の場合はなく、
(iii)
の場合が
ということになります。
[3]
(
解答は
こちら
)
問題文を一読した限りでは、格子点を数える問題に
2
次方程式の解の配置がからんでいていかにも複雑そうに見えます。解答では、こうした問題の常套手段で、
,
の場合を考え、感じをつかんでから一般化する、という方針でやってあります。必要なら、
,
とグラフを描きながら、格子点の数を数えても良いかも知れません。
しかしながら、
2
次方程式を
として、放物線の軸の位置
が、
を満たしていて軸の右側だけ考えればよいこと、さらには、
nm
平面上で、
の境界線
が、
N
以上の解をもつ条件:
の境界線
から上に来てしまうことがわかってしまったところで拍子抜けします。東工大の試験会場でも、おかしいな、何かの間違いでは?と思って、問題を何度も読み返した受験生が少なからずいたと思います。
出題者が何かを勘違いしたのか、女性受験者数を増やすために試験問題を意図的に易しくしたのか、と、あらぬ疑いを持ってしまいます。
結局、台形状領域内の格子点の数を数える
(
しかも、主要点が格子点になっていて場合分けの必要もない
)
だけのことで、
などと考える必要すらなく、最初から一般的に考えても充分解答できます。
こういう問題でこわいのは、一見、複雑そうに見えるので試験中にパスし、試験終了後に、なんだ、簡単だったんだ、と気づくことです。
2009
年度の東工大入試の場合は、ほとんどの受験生が時間を余したと思われるので、この問題をパスして涙を飲んだ受験生は少ないと思いますが、見かけによらず易しい問題もあるので注意してください。
[4]
(
解答は
こちら
)
易しかった
2009
年度前期の東工大の数学の問題の中では、ハイレベルな問題です。ですが、よく勉強していて回転体の体積の基本がしっかりしている受験生にとっては何でもない計算問題だったと思います。
(1)
の誘導がなければ考え込むこともあるかも知れませんが、
(1)
が実に適切なヒントになっていて、手が止まることがなかった受験生も多数いたと思います。
(1)
では、平面の方程式の知識があると便利ですが、知らなくても、以下のようにすれば同様の対処ができます。解答では、
,
を原点と点
を通る直線に垂直なベクトルとして、平面のベクトル方程式:
・・・
(
*
)
を考え、
,
を
,
などと具体に想定して問題を考えていますが、
,
はベクトル
に垂直なので具体的に求めなくても
(
*
)
の時点で、両辺と
との内積をとってしまえば、
なので、
∴
となって平面の方程式が出てきます。ここで
とすれば、
という直線の方程式が得られます。
(2)
では、
xy
平面上の領域を回転すると言っても、回転軸に垂直な平面との交わりとなる線分を回転したものを考えればよい、その線分を
(1)
で求めているのだ、と、わかってしまえばあとは積分の計算問題です。
結局、線分を回転しようと、曲線を回転しようと、広がりをもつ平面図形を回転しようと、立体を回転しようと、やることは同じで、回転軸に垂直な平面で回転体を切るとき、回転軸から最も遠い点と最も近い点を探し出せば、あとは、外側の円から内側の円を取り除くだけのことです。
意欲的な受験生の中には、あらゆるパターンの問題を解いて、自分の頭の中で、このパターンは解法
A
,このパターンは解法
B
,ここがこう変形されると解法
B
ダッシュ、という具合に、パターンごとに完全に整理することを目標にしようと頑張る人もいます。ですが、私に言わせればそれはムダな努力です。回転体の体積を求める問題を
1
題解くときに、もし、線分を回転するのではなく、図形を回転するのだったらどうなるのだろう、立体だったらどうなるのだろうと、発展させて考えておけば、
5
題の問題を解く時間を、自分の趣味やクラブ活動やボランティア活動、あるいは学園祭の準備に使うことができます。そして、
5
題の問題を解いて
5
個のパターンの暗記で片付けようとするよりも、試験場ではるかに応用がきくようになるのです。
もちろん、数学の勉強でも大きなウェイトを占めるのはやはり基礎事項の暗記だと思います。回転体の体積をどう求めるか、置換積分をどうするか、置換積分のパターン、など、暗記の必要なことはいくらもあります。ですが、暗記の分量をできる限り減らす努力を行い、青春を謳歌する時間を確保することを考えるべきです。実社会に出てからも、マニュアル通りに片付かない状況にしばしば遭遇します。そうしたときに、マニュアルのパターンの中になかったからできなかったでは困ってしまう場合も出てきます。むしろ、勉強に限らず、自分の行動のパターンを広げておくことの方が重要だったりするのです。受験準備のうちから自分が持っている解法ライブラリの中で片付かない問題に出くわしたときにどう対処するか、というトレーニングをしておくのは大切なことです。
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