京都大学理系
2008
年数学入試問題
甲
[1]
直線
が関数
のグラフと共有点を持たないために
p
と
q
が満たすべき必要十分条件を求めよ。
[
解答へ
]
甲
[2]
正四面体
ABCD
を考える。点
P
は時刻
0
では頂点
A
に位置し、
1
秒ごとにある頂点から他の
3
頂点のいずれかに、等しい確率で動くとする。このとき、時刻
0
から時刻
n
までの間に、
4
頂点
A
,
B
,
C
,
D
のすべてに点
P
が現れる確率を求めよ。ただし
n
は
1
以上の正数とする。
[
解答へ
]
甲
[3]
AB
=
AC
である二等辺三角形
ABC
を考える。辺
AB
の中点を
M
とし、辺
AB
を延長した直線上に点
N
を、
AN
:
NB
=
2
:
1
となるようにとる。このとき∠
BCM
=∠
BCN
となることを示せ。ただし、点
N
は辺
AB
上にはないものとする。
[
解答へ
]
甲
[4]
定数
a
は実数であるとする。方程式
を満たす実数
x
はいくつあるか。
a
の値によって分類せよ。
[
解答へ
]
甲
[5]
次の式で与えられる底面の半径が
2
,高さが
1
の円柱
C
を考える。
xy
平面上の直線
を含み、
xy
平面と
の角をなす平面のうち、点
を通るものを
H
とする。円柱
C
を平面
H
で二つに分けるとき、点
を含む方の体積を求めよ。
[
解答へ
]
甲
[6]
空間内に原点
O
を中心とした半径
1
の球面
S
を考え、
S
上の
2
点を
A
,
B
とする。
で与えられる平面で
S
を切った切り口の円において、
A
と
B
を結ぶ弧のうち短い方の長さを
とする。また
3
点
O
,
A
,
B
を通る平面で
S
を切った切り口の円において、
A
と
B
を結ぶ弧のうち短い方の長さを
とする。このとき
を証明せよ。
[
解答へ
]
乙
[1]
甲
[1]
と同一
乙
[2]
甲
[2]
と同一
乙
[3]
空間の
1
点
O
を通る
4
直線で、どの
3
直線も同一平面上にないようなものを考える。このとき、
4
直線のいずれとも
O
以外の点で交わる平面で、
4
つの交点が平行四辺形の頂点になるようなものが存在することを示せ。
[
解答へ
]
乙
[4]
定数
a
は実数であるとする。関数
と
のグラフの共有点はいくつあるか。
a
の値によって分類せよ。
[
解答へ
]
乙
[5]
甲
[5]
と同一
乙
[6]
地球上の北緯
東経
の地点を
A
,北緯
東経
の地点を
B
とする。Aから
B
に向かう
2
種類の飛行経路
,
を考える。
は西に向かって同一緯度で飛ぶ経路とする。
は地球の大円に沿った経路のうち飛行距離の短い方とする。
に比べて
は飛行距離が
3
%以上短くなることを示せ。ただし地球は完全な球体であるとし、飛行機は高度
0
を飛ぶものとする。また必要があれば、この冊子の
5
ページと
6
ページの三角関数表を用いよ。
注:大円とは、球を球の中心を通る平面で切ったとき、その切り口にできる円のことである。
[
解答へ
]
(
注.三角関数表は解答ページにあります
)
各問検討
甲
[1]
(
解答は
こちら
)
素直な受験生は、この問題を、
のグラフと直線
の位置関係から考えると思います。
は単調増加で
は全実数をとります。
であれば、単調減少もしくは定数値をとる
と、
は必ず交点をもってしまうので、
のときは、
と
が接するところを求めるために、
として、
のとき、
の
y
座標は、
直線
が
よりも上を通過すれば、
と共有点をもたないから、
∴
というようにしてくれば、試験会場でも充分に実用的です。
ですが、入試問題は問題文に書かれているとおりに考えなければいけないというものではありません。別の角度から眺めることにより、難問が平凡な問題に変わってしまう、ということはよくあることです。
「定数の分離」という受験技巧がありますが、
定数だけ=
x
を含む式 ・・・
(
*
)
という形にすると問題を捉えやすくなるのです
(
微分法の方程式への応用
(2)
を参照
)
。
そこで、解答では、
と
を連立して、
(
*
)
の形を作るために、定数
q
を分離して、
として、関数
を考えました。
のグラフを描き、
x
軸に平行な直線
が
q
の値によってどの辺を通るか、ということを考えれば、
と
の共有点について調べることができます。
「定数の分離」は応用範囲の広い技巧なので、すぐに思いつけるようにしておいてください。
甲
[2]
(
解答は
こちら
)
正攻法で、
A
,
B
,
C
,
D
の
4
文字から
1
文字ずつ選んで
個の文字を並べるのに、一番最初を
A
として、同じ文字が隣接しないような並べ方を数える、というような考え方では難しいでしょう。確率・場合の数では、正攻法で難しければ「余事象」が切り札になります。
「
4
頂点すべてに点
P
が現れる」という事象の余事象ということになれば、
4
頂点のうち
2
頂点にしか
P
が来ない、または、
4
頂点のうち
3
頂点にしか
P
が来ない、ということになります。
2
頂点に来るのは、
A
ともう一つの頂点を往復する場合です。確率はすぐに求められます。
3
頂点に来る場合が問題ですが、例えば、
A
,
B
,
C
の
3
頂点の中だけで動く場合の確率から、
2
頂点を往復する
(
既に求めている
)
場合の確率を引けばよいので、何とかなりそうです。
こうした確率の問題、特に、あまり難問とは言えないような問題で注意しなければいけないのは、思わぬミスです。重複カウントや場合分け忘れなどの勘違いで不覚をとることのないように気をつける必要があります。必ず、
n
の小さな場合などで、確認をするように心がけてください。
甲
[3]
(
解答は
こちら
)
こういう平面幾何の問題で意表をつかれて戸惑った受験生もいたかも知れません。
∠
BCM
=∠
BCN
というのは、
BC
が∠
MCN
の
2
等分線ということなので、
MC
:
CN
=
MB
:
BN
=
1
:
2
が言えれば良いわけです。
AC
の中点
P
をとって、
PB // CN
に気づけば、
PB
:
CN
=
1
:
2
となるので、あとは、
PB
=
MC
が言えればよいことになります。
京大では、平面幾何の一部が高校に移ってくる以前から、平面幾何の利用によって簡単に解ける問題が出ていました。こうした問題が出題されるということは、京大入試では、平面幾何の知識が今後も役立つ、ということが言えるだろうと思います。
甲
[4]
(
解答は
こちら
)
展開して
4
次方程式にしてしまうのでは骨が折れます。定数
a
を分離するのも無理なことをすればできなくはありませんが、
2
つの
2
次方程式にしてしまう方がラクにすみます。ただ、
2
つの
2
次方程式が同じ解をもってしまう場合があるので、共通解があるかどうかを別に調べなければいけません。
最近、共通解の問題もあまり見かけません。解答に書いておいた共通解の技巧はポピュラーな技巧とは言えませんが、一応、見ておいてください。例えば、次のような問題で効果があります。
早大理工
'86
年
[4]
:
実数
a
,
b
は、
,
を満たすとする。このとき、つぎの二つの方程式
・・・
(i)
・・・
(ii)
は共通解を持たないことを示せ。
なお、定数の分離の技巧を無理に使う解法については
(
私ならやりませんが
)
、旺文社全国大学入試問題正解に掲載されいるので、興味のある方は参照してください。共通解の探し方も、この本にもう少し簡単にすむ方法が書いてあります。
甲
[5]
(
解答は
こちら
)
どんな問題集にも出ていて、理工系の受験生であれば一度は目にしたことがあるだろうという問題です。立体を
y
軸に垂直な平面で切った断面の面積を
y
軸方向に積分すればよい、ということは理工系の受験生であれば誰でも知っているはずのことです。問題そのものは標準問題なのですが、正答率が高いか、というとそういうものではありません。計算問題であるがゆえに、ケアレスが入り込みやすく、こういう問題の正答率は意外に低いものなのです。
これから微分・積分を極めよう、という皆さんに申し上げておくと、立体の切断面を考えるときは、その面積を求めやすい方向から立体を切ります。この問題では、
y
軸に垂直に切ります。切断面は長方形になるので、面積を求めるためには、縦と横の長さを、切断面の
y
座標
k
で表します。縦と横の長さを求めるためには、立体を真上から眺めたり、
x
軸に平行に眺めたりします。それぞれ、どのように見えるのか、図示して考えるようにしましょう。
定積分は、断面積を、立体が存在する
y
座標の範囲について積分します。
定積分は
2
つの部分に分けられます。
片方は、
という積分です。この積分は、
を含む式
に
がついているという形:
をしています。この場合は、通常、
という置換をしますが、これでは、
となり、根号内が
となっておもしろくないのです。そこで、
とおけば、
となって、計算しやすくなります。解答では、
の積分よりももっとラクにしようということで、根号全体
を
t
と置きました。できる限り計算ミスをしにくいような計算法を心がけてください。
もう一方は、
という積分です。この積分は、
という置換をするのが定石です。
というようにしても積分できますが、解答のように、
(2
乗してみてください
)
は、円:
の
の部分を表すので、円の面積の一部として暗算で求めてしまえば早くすみます。
こういう計算問題は、誰がやってもミスをし易いものです。計算ミスをしたからと言って、自分を責めたりしないようにしましょう。何が大切かと言うと、誰でもミスはするものだ、ということを認めて、しっかりと検算することです。検算も、計算をした直後に行うと、脳内が沸騰していて、検算時にまた同じミスをやるので、一旦、他の問題に飛んで、計算過程を忘れてから見直すようにするとミスを発見し易くなります。
甲
[6]
(
解答は
こちら
)
球面上で
2
点間の経路の長さを比べる問題で、やりにくそうに見えますが、「
空間図形の問題は平面図形に置き直して考える
」ということを一つの定石としてください。この問題では、解答のように、問題文に出てくる
2
円を
A
,
B
で交差するように同一平面上に描いてしまえば、
2
経路の大小は一見して明らかです。
半径の小さい方の円周上の長さの方が大きい、としても、多分、許してもらえると思いますが、解答では実際に長さを比べてあります。
2
円の半径は、片方が
で、もう一方が
1
になります。
と
の長さを求めるために、
を見込む中心角
j
,
を見込む中心角
q
を考えます。
j
は正三角形の頂角になるので
とわかります。
q
は、余弦定理で求めますが、
としかわかりません。
,
を比べなければいけませんが、
q
がわからないので、
と
を比べることになります。
において、
は単調減少関数なので、
より、
というストーリーになります。
いわゆる受験技巧が通用しない問題、ということで、理工系の全受験生に考えて頂きたい良問だと思います。
乙
[3]
(
解答は
こちら
)
京大は、「条件・・・をみたす・・・が存在することを示せ」という問題をよく出題します。「必ず
A
⇒
B
となること」を示すのに比べて、「存在」を示す問題は、全部のものが条件をみたすわけではないけれど、中に条件をみたすものが存在することを示す、という点で、示し方が難しくなります。
条件
(C)
をみたすものが存在するなら、それは条件
(D)
をみたすはずだ、というのでは、存在を示したことにはなりません。条件
(D)
をみたすものはどんなものか、本当に存在するのか、ということを言わなければいけません。
これをできるだけ簡単に考えるためには、条件
(C)
をみたすものを見つけ出す方法を説明すればよいのです。「天竺の国には不老長寿の薬が存在することを示せ」と言うのであれば、天竺の国に行く行き方を示し、こうすれば必ず不老長寿の薬を手に入れることができる、ということを説明すれば、「存在」を示したことになります。
このとき、不老長寿の薬が実は
100
種類くらいあるとして、
100
種類のうち
1
種類の入手法を説明すれば、「存在」を示したことになります。
100
種類すべての入手法を説明する必要はありません。
「
4
直線との交点が平行四辺形の
4
頂点となるような平面が存在することを示せ」というのであれば、平面と
4
直線との交点を
4
頂点とするような四角形でいて、平行四辺形となるものを、どうやって見つけることができるのか、ということを説明します。
解答では、
,
,
,
となるように、
s
,
t
,
u
,
v
を定めて、
4
直線上の点
A(
)
,
B(
)
,
C(
)
,
D(
)
をとれば、
となっていて、四角形
ABDC
が平行四辺形になっていることを説明しました。
4
直線との交点が平行四辺形となるようなものの見つけ方が説明されているので、条件を満たす平面の「存在」が示せたことになります。
乙
[4]
(
解答は
こちら
)
この問題は、式変形により、
'08
年前期甲
[4]
に帰着します。甲
[4]
の検討を参照してください。
乙
[6]
(
解答は
こちら
)
実質的に
'08
年前期甲
[6]
と同じ問題ですが、三角関数の表がついていて、数値計算をするようになっています。
詳細な三角関数の表にはびっくりしますが、昨年、
東工大
'07
年物理前期
[3]
でも出ているので、京大の先生が、じゃあうちでも、と、思ったのかも知れません。
球面上で考え抽象的で目的のわからない甲
[6]
と比べて、地球表面の飛行距離をイメージして具体的で問題の目的が明確な乙
[6]
の方が取り組みやすいのではないかと私は思うのですが
......
。
緯度・経度がわからない、という受験生がいたそうです。三角関数表よりもこの方が私には驚きでした。京大に合格したとして、卒業後、気象を扱うような仕事についたときに、台風や低気圧の進路をどう考えるつもりなのでしょうか?入試の範囲以外のことは関係ない、と言うのなら、京都大学を目指すべきではないと私は思います。こちらをご覧の皆さんには、ぜひ幅広い素養を身につけるように頑張って頂きたいと思います。
同一緯度上の経路と大円上の経路との大小は直感的にわかると思うので、三角関数の表が与えられていて、経路の長さを数値的に比較できる、という点でも、乙
[6]
は、角の大きさで比較できない甲
[6]
よりやりやすいと言えるのではないでしょうか。
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