慶應大学理工学部
2008
年数学入試問題
[A1]
(1)
とする。
xy
平面上で
,
,
により定められる部分
A
の面積は
ア
である。また空間内で
x
軸のまわりに
A
を
1
回転させてできる回転体の体積は
イ
である。この体積は
a
=
ウ
のときに最大となる。
(2)
t
を実数とする。空間内の
2
点
P
,
Q
を通る直線と
xy
平面との交点は
R (
t
,
エ
,
0)
である。
t
が
の範囲を動くときに点
R
が描く曲線を
C
とする。
xy
平面上で、
x
軸,
y
軸と
C
とにより囲まれた部分の面積は
オ
である。
[
解答へ
]
[A2]
(1)
さいころを続けて
n
回投げるとき、
6
の約数の目が奇数回出る確率を
とする。たとえば、
=
,
=
カ
である。
のとき
と
の間には
=
キ
という関係式が成り立つ。これより
n
を用いて
をあらわすと
=
である。
(2)
さいころを続けて
100
回投げるとき、
1
の目がちょうど
k
回
(
)
出る確率は
であり、この確率が最大になるのは
k
=
コ
のときである。
次に、さいころを続けて
n
回投げるとき、
1
の目がちょうど
k
回
(
)
出る確率を考える。
n
を固定したとき、この確率を最大にするような
k
の値が
2
個存在するための必要十分条件は、
n
を
サ
で割ったときの余りが
シ
となることである。
[
解答へ
]
[A3]
(1)
実数
a
を固定したとき、直線
と曲線
が共有点を持つための切片
b
の条件を
a
を用いてあらわすと
ス
である。
(2)
実数
a
を固定したとき、直線
と曲線
が共有点を持つための切片
b
の条件は、
セ
のとき
ス
であり、
セ
のとき
ソ
となる。
このように、
a
を固定したとき、直線
と曲線
が共有点を持つような
b
の最小値が存在することがある。この最小値の符号を換えたものを
と書くことにする。たとえば
ならば
=−
(
ス
)
である。
(3)
とする。
と定めて、
a
を変数
x
で書き換えた関数
に対して
を考える。
タ
のとき
=
チ
であり、
タ
のとき
=
ツ
である。
[
解答へ
]
[A4]
(1)
t
を実数とする。座標平面内の
2
点
,
を結ぶ線分の垂直
2
等分線
の傾きは
テ
で、方程式は
y
=
テ
x
+
ト
である。
直線
に関して点
と対称な位置にある点を
とする。座標であらわすと、
は
,
は
ナ
,
は
ニ
である。また
の座標を
t
を用いてあらわすと
である。
のとき
は直線
y
=
ノ
に限りなく近づく。
(2)
t
がすべての実数をとるときに
が描く曲線を
C
とする。点
(
)
における
C
の接線の傾きは、
のとき
ハ
に近づく。曲線
C
と直線
が異なる
3
点で交わるための必要十分条件は
ヒ
<
a
<
フ
である。
[
解答へ
]
[B1]
n
は正の整数とする。
(1)
ヘ
である。
以下で
p
,
q
,
r
は正の実数とする。
とおく。
(2)
すべての
n
に対し
であることを証明しなさい。
(3)
極限
が
0
でない有限の値となるのは、
r
と
p
の間に関係式
ホ
が成り立つときのみである。そのときの極限値を
p
を用いてあらわせば
マ
である。さらに
が
0
でない有限の値となるのは、
p
と
q
の間に関係式
ミ
が成り立つときに限る。
(4)
すべての
n
に対し
が成り立つための必要十分条件は、
かつ
であることを証明しなさい。
[
解答へ
]
各問検討
[A1]
(
解答は
こちら
)
(1)
は、
早大理工
'08[1]
とほとんど同じ曲線ですが、早大理工が斜回転体の体積を求めさせているのに比べれば
x
軸のまわりの回転体ということで穏やかな問題になっています。解答では回転体の体積を置換積分で求めましたが、展開して積分するのでも手間はかかりますができます。面積も体積も、実質的に
の形の積分だけですみます。体積最大も
3
次関数の微分で片付きます。
(2)
は、空間における直線のベクトル方程式を書いて、
xy
平面との交点なので、
とすれば、曲線の式が得られます。曲線の式も特に注意すべき点はありません。平凡に面積を求める積分を行うことができます。積分は、
の形をしているので、
とおけば良いのですが、解答では、分母を
u
だけにするために、分母全体
を
u
とおきました。この問題ではあまりメリットはありませんが、もっと複雑な定積分計算を行う場合には、効果大のことがあります。
[A2]
(
解答は
こちら
)
この問題も
'08
年
[A1]
と同様に穏やかな問題です。慶大理工を目指すような受験生であれば、どこかで目に触れている内容の問題です。
5
年前くらいまで慶大理工には厳しい問題が並んでいました。入試で
2
割、
3
割しか正解できない答案ばかりでは選抜できない、ということで、安易に問題のグレードを下げてしまうのであれば、いずれ、慶大理工は、オリジナリティー溢れる入試問題を追求し続ける早大理工の後塵を拝するようになってしまうのではないかと思います。空所補充式で正答率が下がってしまうのであれば、慶大理工も、早大理工と同様に全問記述式にするべきではないでしょうか。
さて、本問前半部分は、よくある確率と数列の融合問題ですが、
回めと
n
回めの間の移り変わりを考えることにより容易に
2
項間漸化式を作ることができます。
後半部分も、反復試行の確率
と
の比を考えるのは定型的な問題なので、ここで、引っかかるようでは、慶大合格は無理だと私は思います。
私が受験生だった頃は、早慶制覇すると早稲田に行く人の方が多かったような気がしますが、最近は慶応に進む人が多いと思います。慶応ブランドの向上には長年にわたる良質の問題の蓄積が寄与したように思います。早慶には、受験生の人気取りに走ることなく、私学の雄にふさわしいレベルを保つべく鎬
(
しのぎ
)
を削って欲しいと思います。
ここで、昔、雑誌「大学への数学」に「ハノイの塔」というパズル
(Wikipedia
などを参照してください
)
を題材にしたと紹介されていた以下の問題を掲げておきます。漸化式を立てさせる問題にしても、慶応としてこの程度のレベルは必要なのでは?
慶大理工
'84[2]
:
同じ大きさの箱が横に
3
個並べてあり、その中の
1
つには、
1
から
n
(
)
までの相異なる番号のついた
n
枚の札が入れてある。次の操作を繰り返すことによって、別の
1
つの箱に
n
枚とも移したい。
操作:
1
つの箱の中で、一番小さい番号のついた札
1
枚を別の箱に移す。ただし、移そうとする札の番号より小さい番号の札が入っている箱には移すことはできない。
いま、
n
枚の札全部を別の
1
つの箱に移しかえるために必要な操作の最小数を
とすれば
=
キ
,
=
ク
,
=
ケ
である。
と
(
)
との間には、関係式
=
コ
+
サ
が成り立つ。よって
を
n
の式で表せば、
=
シ
である。
[
答
](
キ
) 1
(
ク
) 3
(
ケ
) 7
(
コ
)
は、とりあえず
1
〜
を
2
番目の箱に移して
(
回
)
、番号
n
を
3
番目の箱に移し
(1
回
)
、
2
番目の箱の
枚を
3
番目の箱に移す
(
回
)
と考えて、
より
2
(
サ
) 1
(
シ
)
[A3]
(
解答は
こちら
)
この問題くらいが、慶大理工の入試問題として適切なレベルだと思います。
2
次方程式の実数解に関する技術も必要だし、頭を使う部分もあるし、良問だと思います。
(2)
では、問題文の指示通りに、
a
について場合分けできるか、さらに、
の場合には、放物線の軸の外側に実数解を持つためには判別式≧
0
であればよく、
の場合には、判別式はどうでもよくて直線が限界の点
の上を通りさえすればよい、ということに気づければ良いわけです。
(3)
で妙な記号
が出てきますが、記号の意味をつかんでグラフを描いて
(2)
と同様に考えることができれば、難しいわけではありません。新しいものにも意欲的に挑戦していこう、という気持ちがあれば、正解できるはずです。
[A1]
や
[A2]
では差がつかないので、こういう見慣れない概念が登場する問題でこそ得点の稼ぎどころなのですが、試験場にいる時だけ見慣れない概念について行こうとしても無理というものです。入試に関係ないから世界史の勉強はやりたくない、などと言わずに、日常から幅広く興味の対象を持って頭脳を柔らかくしておくことが、こういう問題をものにする秘訣です。
[A4]
(
解答は
こちら
)
この問題はまともに体当たりするとなかなか大変です。空所補充式だから手抜きをして良いというわけではありませんが、試験場ではうまく立ち回らないと得点的に不利になってしまいます。
垂直二等分線の式、対称点の座標を求める部分については、基本通りにしっかり計算をする必要があります。しかし、それ以降については、空所補充問題であること、
,
,
をチェックしていることから考えて、私には、出題者が論理的な思考を要求しているようには思えないのです。最終解答しか聞いていないのだからいい加減な議論でも良い、ということではなく、むしろ積極的に空所補充問題であることの意義を活用して、直観力を見ている問題のように思えます。「必要十分条件は」というような言葉に惑わされないようにして頂きたいと思います。
この問題の市販本の解答は、ロジックのしっかりとしたものになると思います。それは宿命でしょう。しかしながら、市販本のように解いたのでは時間を大幅にムダにするということも頭に入れておいてください。空所補充式では、受験生が試験会場で必要十分条件であることをしっかり証明をしたかどうか、また、きちんと増減表を書いて計算して確かめたか、ということは、全く見てもらえません。解答欄の答が正しいか誤りか、それだけが採点の対象になるのです。
実社会に出て社会の第一線で仕事をするようになったときに、例えば、大災害が起きて一刻も早く救助活動を開始しなければいけない、というときに、その救助の方針や手法が理にかなったものかどうか、証明しなければ活動できない、とか、計算して経済的妥当性を確認する必要がある、などと言っているうちに人命が失われてしまいます。たとえ、いい加減な議論でも、行動の速さが問われるということもあるのです。
この問題のポイントは、
P(1)
が尖点だというところにあります。これさえつかめれば、
(
ハ
)(
ヒ
)(
フ
)
は計算なしに得点することができます。
尖点の存在がポイントになる問題を紹介しておきましょう。難問ですが腕に覚えのある人はじっくり取り組んでみてください。
東大理系
'87[2]
:
点
を点
にうつす平行移動によって曲線
を移動して得られる曲線を
C
とする。
C
と曲線
,
が接するような
a
,
b
を座標とする点
の存在する範囲の概形を図示せよ。
また、この
2
曲線が接する点以外に共有点を持たないような
a
,
b
の値を求めよ。ただし、
2
曲線がある点で接するとは、その点で共通の接線を持つことである。
問題文では「範囲の概形」となっていますが、尖点をもつ曲線になります。尖点を境にして放物線:
と
の位置関係が変わります
(
おもしろいので、いろいろ図に描いて確かめてみてください
)
。また、両曲線が接点以外に共有点を持たないとき、
は概形を描いた曲線の尖点になっています。実は、このとき、両曲線は非常に微妙な接し方をしています。
[B1]
(
解答は
こちら
)
慶大理工は、最近、区分求積法を利用する問題をよく出しています。苦手にする人が多いので、よく理解しておきましょう。この問題では、
(1)
だけでなく、
(3)
でもポイントになるところです。もっとも、
(3)
は、
,
,
を調べれば予測がついてしまいますが。
(4)
をいきなり示せ、と、言われると、厳しいかも知れませんが、
(3)
を利用するのだろう、と、思えば、
に気づけるはずです。
この論述問題も、やれどもやれども出口が見えてこない
'02
年
[B1]
などの重量感と比べてしまうと、一時ほどの迫力は感じません。手間のかかる
早大理工
'08[2]
などと比べても、ずっと穏やかな感じがします。ちょっと寂しい感じがしますね。
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