京大物理'13[3]

次の文章を読んで、  に適した式か値を、{  }からは適切なものを選びその番号を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、  はすでに  で与えられたものと同じものを表す。また、問1,問2については、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。

1に示すように、ピストンWと仕切板Dによって内部の領域を分けられたシリンダーがある。シリンダーは固定されており、ピストンWと仕切板Dは摩擦なしに動くことができる。ピストンWと仕切板Dの間を領域Aとし、仕切板Dとシリンダー右端の間を領域Bとする。領域Aと領域Bには、異なる理想気体がそれぞれ密閉されている。定積モル比熱を,気体定数をRとすると、領域Aと領域Bに密閉さている気体のの値は、それぞれである。シリンダーの外壁とピストン,仕切板は、すべて断熱材でできている。領域Bの気体は、シリンダーの右端に取り付けられた温度調節器Cによって加熱または冷却される。領域Bの気体全体の温度は、すみやかに温度調節器の設定温度になるものとする。なお、温度調節器の電源を切ると、領域Bは断熱環境となる。さらに、シリンダー内部にはストッパーSが設けられており、仕切板がストッパーより右側に動くことはない。仕切板がストッパーの位置にあるときの領域Bの体積はである。ピストン、仕切板、ストッパー、温度調節器の体積は無視できるものとする。また、ピストンの左側は常に大気圧となっており、その値はである。
最初、領域
Aの気体の圧力、体積、温度は、それぞれであり、領域Bの気体の圧力、体積、温度は、それぞれであった。この状態を初期状態とする。このとき領域Aの気体と、領域Bの気体のモル数はそれぞれ、 あ  い である。初期状態から以下の(1)(4)に示す操作を行った。

(1) 温度調節器で領域Bの気体を加熱し、温度をからまでゆっくりと上昇させた。このとき、領域Bの気体の内部エネルギーの変化は う であり、領域Bの気体がした仕事は え であるから、領域Bの気体が温度調節器から吸収した熱量は お である。

理想気体の断熱変化では、は一定である。ここでγは比熱比と呼ばれ、定圧モル比熱をとすると、で定義される。理想気体では、の差 か に等しいことを考慮すれば、領域Aの気体の比熱比は き であり、領域Bの気体の比熱比は く である。
なお、以下の解答では、領域
Aの比熱比 き α,領域Bの気体の比熱比 く β と表記せよ。

(2) (1)で行った操作に引き続き、温度調節器で領域Bの気体の温度をに保ちながら、ピストンWに外力を加え、ゆっくりと右方へ押し込んでいった。仕切板DがストッパーSに接触したとき、ピストンWを押し込む操作を中断し、そのままの状態で保持した。このとき領域Aの気体の体積は け である。
1 (2)で行った操作で、外力が気体にした仕事を求めよ。ただし、領域Bの気体が温度調節器を通じて外部に放出した熱量をQとする。導出の過程も合わせて示せ。

(3) (2)で行った操作に引き続き、さらにピストンWを押し込んでいくと、領域Aの気体の体積がとなった。この時点でピストンWを押し込む操作を中断し、そのままの状態で保持した。このとき、領域Aの気体の圧力は こ である。
2 (2)で行った操作の開始から(3)で行った操作の終了までの間において、領域Aの気体と領域Bの気体の状態変化を、横軸を体積、縦軸を圧力として図示せよ。また、領域Bの気体がされた仕事に相当する領域を図中に斜線で示せ。ただし、各操作の過程で状態の変化があるときは、変化の進む方向に矢印を付し、その変化の始状態と終状態における体積と圧力を図中に記入せよ。

(4) (3)の操作に引き続き、温度調節器で領域Bの気体を加熱した。仕切板D がストッパーから離れかけた瞬間に温度調節器の電源を切り、領域Bを断熱環境とした。その後、領域Aの気体の圧力が大気圧に等しくなるまで、ゆっくりとピストンWを左方に移動させた。このとき、領域Bの気体の体積は さ であり、そのときの領域Aの気体の体積{し:@より大きい Aより小さい Bと等しい}。また、この過程で領域Aの気体のした仕事は、領域Bの気体のした仕事{す:@より大きい Aより小さい Bと等しい}。気体の仕事に関するこのような性質は、熱機関における効率を考える上で重要である。


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解答 比熱比が違うと断熱変化のp-V図がどう違うのかという趣旨の問題です。興味深い問題ですが、()以降はほぼ正解者ゼロと想像します。物理では、問題文を読まずに多分こういう問題だろうと決めつけて解答する豪傑がいますが、本問は、そうした豪傑でもなければ解けないでしょう。難問だからではなく、問題文が不備だからです。
(1)の問題文に、温度調節器で気体Bを加熱している間、気体A温度、またピストンや仕切板をどうしていたのかの記述がありません。ここでは、大気とのつり合いが保たれていて、気体A温度は変化しない、つまり、気体Aの状態変化はなく、気体B定圧変化をしたものとして解答します。(4)問題文の{}の前の「この過程」も、どの過程を指すのかわかりませんが、ここでは温度調節器の電源を切った後の過程として解答します。試験会場で受験生はどうしたのでしょうか?
1では、大気も気体Aと気体B仕事をしていることに注意します。

(1) 気体Aのモル数をとして、 最初の気体A状態方程式は、
 ∴
() ......[]
気体Bのモル数をとして、最初の気体B状態方程式は、
 ∴
() ......[]
なので、気体B内部エネルギーの変化は、
() ......[]
気体Bを加熱している間、ピストン、仕切板に働く力のつり合いが成立していて、気体A,気体B圧力のままと考えます。
気体
Bの加熱後の状態方程式は、体積として、
()の結果より、
気体
Bがした仕事は、
 (気体がした仕事を参照)
() ......[]
(
)()の結果より、気体Bが吸収したは、
() ......[]
マイヤーの関係式より、
() R ......[]
気体Aの比熱比はより、 ()
(
) ......[]
気体Bの比熱比はより、 ()
(
) ......[]

(2) ピストンを押し込む間も、仕切板に働く力のつり合いが成立していて、気体Aと気体B圧力は等しくなります。仕切板がストッパーSに接触した時点の圧力,気体A体積温度として、気体A状態方程式は、
 ・・・@
等温変化した気体B状態方程式は、
()の結果より、
問題文の
断熱変化の関係式(ポアッソンの関係式)より、
 ∴
() ......[]
1 @と()の結果より、
 ∴
気体A内部エネルギーの変化は、より、()の結果を用いて、
気体Bは、等温変化をするので内部エネルギーの変化0,放出した熱量Qで、熱力学第1法則より、領域Bの気体のした仕事は、
気体
Aが仕切板を通して気体Bにした仕事は、
この間の気体
A気体B合わせた体積変化は、
ピストンを介して気体Aが大気に抗してした仕事が、
外力が気体にした仕事Wとして、気体Aがした仕事は、
気体A断熱変化をしているので、熱力学第1法則より、
......[]

(3) ここでも気体A断熱変化をします。
体積になったときの気体A圧力として、ポアッソンの関係式より、()の結果を用いて、
 ∴
() ......[]
2 (3)の過程では仕切板がストッパーで止まっているので気体Bの状態は変化しません。気体B(2)の過程で等温変化して、と変化します。
気体A(2)(3)を通じて断熱変化し、と変化します。
等温変化
p-V図よりも断熱変化p-V図の方が傾きが急になることに注意してください。
領域
A,領域Bの気体の状態変化を図示すると右図(斜線部は領域Bの気体がされた仕事)。なお、です。

(4) 温度調節器で気体Bを加熱して、気体Aと同じ圧力になったとき、気体B体積で、この後、温度調節器の電源を切った後は、気体B,気体Aともに断熱変化をします。
ピストンを引いて気体A圧力,従って気体B圧力としたときの気体B体積とすると、ポアッソンの関係式より、
 ∴
() ......[]
気体Bを加熱している間、仕切板は動かないので、気体Aの状態は変化せず、圧力体積のままです。
温度調節器の電源を切った後、気体
A,気体Bはともに断熱変化をしますが、ポアッソンの関係式において、気体Bの方が比熱比γが小さいのでp-V図は、気体Bの方がなだらかになります(のグラフとのグラフを比べてみてください)
温度調節器の電源を切った時点で気体
Aと気体B圧力体積は一致しているので、その後両気体の体積が増加して両者の圧力となったとき、体積は気体Bの方が大きくなり、気体Bp-V図が気体Ap-V図の上に来ます。p-V図とV軸とで囲む面積が気体のした仕事に一致するので、気体のした仕事は気体Bの方が大きくなります。
() @ () A ......[]
注.圧力に戻ったときの気体A体積として、ポアッソンの関係式より、 ∴ ,つまり、気体Aは最初の状態に戻ります。気体B体積()よりとなっています。


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