京大物理'09[2]

次の文を読んで、  には適した式を、{  }からは適切なものを選びその番号を、それぞれの解答欄に記入せよ。また、問1〜問3では指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。
荷電粒子にエネルギーを与え加速する装置を加速器と呼ぶ。ある種の加速器では、運動する荷電粒子が磁場中を通るとローレンツ力を受けて曲げられることを利用し、磁場を用いて荷電粒子に円形軌道を描かせながら加速する。このような加速器の原理に関して、以下の問に答えよ。

(1) 1に示すものは、その一つでサイクロトロンと呼ばれる装置の概略図(a)と原理図(b)である。以下、原理図(b)にもとづき考察する。真空中に、半径の半円形で薄い中空の2つの加速電極を、直線部で距離だけ離して対向させて置く。ただし、dに比べて十分小さいとする。この両電極間のすき間をギャップと呼ぶことにする。この電極面に垂直に紙面奥から手前に磁束密度の一様磁場を与える。簡単のために、重力は無視でき、ギャップ部の磁場はないと仮定する。
左側半円電極()が正極、右側半円電極()が負極となるよう直流電圧がかけられているとき、の半円の中心部に置いたイオン源Sから電荷(),質量の荷電粒子が初速ゼロで供給された。直流電圧Vによる電極間の電場は一様かつ均一であると仮定する。荷電粒子は電極に向かって距離dにわたって加速され、速さ イ の空洞内に入り、磁場によってローレンツ力を受ける。これと遠心力がつりあって、荷電粒子は等速で半径 ロ の円軌道を半周描いた後、電極の直線部に到達しを出る。荷電粒子が電極空洞内にいる時間は、 ハ である。
この間に電極間電圧を反転させ、が負極、が正極となるように直流電圧
Vをかけると、再び荷電粒子はギャップを通過するときに加速され、の空洞内に入り等速円運動を始める。円運動の周期は、荷電粒子と一様印加磁場が決まれば変化しないので、継続して荷電粒子を加速するためには電極間の直流電圧の向きを変える時間間隔は一定でよい。ただし、両電極間を通過する時間は ハ に比べて十分短いとする。
これを繰り返すことによって荷電粒子は加速され、描く円運動の半径はしだいに大きくなる。以下では、この円軌道が半円電極内にある場合を考える。描く軌道半径が
()になったとき、荷電粒子の速さは ニ となり、このとき荷電粒子が持つエネルギーは、 ホ である。また、これまでに電極間で加速された回数n ヘ である。
1 この後、回目()の加速後の軌道半径をRに維持するためには、一様磁場の磁束密度と電極間の直流電圧の向きを変える時間間隔をそれぞれどのような値にすればよいか。n回目までの磁束密度と時間間隔を用いて求めよ。ただし、直流電圧の大きさVは一定とする。

(2) 円運動する荷電粒子を、軌道半径を変えないで加速する方法として、与える磁場の変化による誘導電場を用いるベータトロンと呼ばれる装置がある。この原理について考えてみよう。
まず図2のように、真空中において、半径の円柱形の鉄心を持つ電磁石の磁極のすき間に一様磁場を上向きに与えた場合を考える。重力の影響は無視できるとする。初期の磁場の磁束密度はで、その中を図2のように(1)と同じ荷電粒子が半径で等速円運動しているとき、荷電粒子の軌道断面を単位時間当たりに通過する電荷量、すなわち電流は、 ト と書ける。
この荷電粒子を加速するために磁場を変化させたとき、荷電粒子に働く力を次のように考えてみよう。磁場変化によって軌道半径が変わらないと仮定すると、この荷電粒子の運動は、その軌道上に置いた半径
rで変形しない抵抗のない円環に流れる電流と見なせる。この電流の大きさは ト である。このように仮定した円環に磁場変化を与えた。磁極間の磁束密度を一様に保ちながら、時間の間にだけ均一に増加させると、円環に誘起される起電力は円環を貫く磁束の単位時間当たりの変化で与えられ、その大きさは チ である。そのとき、円環上の電場の大きさは リ となり、これによって円環には電流が誘導される。
円環に電流が誘導されるということは、荷電粒子が誘導電場 リ による力を受けて加速されることと等価である。このとき、荷電粒子が受けた力積は荷電粒子の運動量の変化に等しいので、初期の磁束密度での速さを考慮すると後の速さは、 ヌ となる。荷電粒子に働く中心方向の合力は ル となり、このように磁極間に一様で、均一な磁場変化を与えて荷電粒子を加速した場合には、軌道半径が
{ヲ:@ 大きくなる A 変わらない B 小さくなる}ことがわかる。
実際のベータトロンでは、荷電粒子の軌道半径を変えないで加速するために、磁極間の磁場分布は一様ではなく、与える磁場変化も均一にならない工夫をしている。これについて考えてみよう。
2 前述と同じ初期の状態から時間の間に、軌道上の磁束密度を,軌道で囲まれる面を貫く全磁束をだけそれぞれ増加させたところ、軌道半径は変わらずに荷電粒子の速さの変化がとなった。このとき、 ル を導いた場合と同様に、軌道上の荷電粒子の運動量の変化と中心方向の力のつりあいを考えての関係式を求めよ。
3 上の問2の結果をもとに、実際のベータトロンの磁極の断面形状として図3(a)(b)のどちらが適当であるか選べ。図中の磁極間の矢印は磁力線の概略である。磁力線の密度は磁束密度の大きさに対応している。

解答 (1)だけ、(2)だけでも、大問1題として充分だと思いますが、欲張った問題です。(2)のベータトロンの考察の最後の部分は、過去に出題されてきたベータトロンの問題で残っていたモヤモヤ感を解消してくれていて、ベータトロンの決定版と言うべき内容に工夫されています。

(1)() ギャップ部分の電場が荷電粒子に対してした仕事が荷電粒子の運動エネルギーになります。
 (エネルギーの原理を参照)
......[]
() 荷電粒子の円運動の軌道半径とします。荷電粒子が受けるローレンツ力の大きさは,これが、遠心力とつりあいます。
 ・・・@
()を用いて、

......[]
() 荷電粒子が電極空洞内にいる時間は、円軌道の半周の距離速さで進む時間であって、@と()を用いて、

......[]
注.問題文にも書かれていますが、荷電粒子が電極空洞内で半周する時間速さに依らないことに注意してください。これがサイクロトロンの特徴です。
() 軌道半径になったときの荷電粒子の速さとして、@より、
......[]
() このときの荷電粒子のエネルギーは、

......[]
() 直流電圧Vによる加速1回当たり荷電粒子のエネルギーずつ増加するので、加速された回数nは、()で割って、

......[]
1 n回加速後の荷電粒子のエネルギー
 ・・・A
回加速後の荷電粒子のエネルギー
 ・・・B
B÷Aより、
......[]
n
回加速している間は、電極間の直流電圧の向きを変える時間間隔は、()時間であればよく、
 ・・・C
n回加速後の時間間隔は、同様に考えると
 ・・・D
D÷Cより、
......[]

(2)() ベータトロンにおいて、()と同様に、ローレンツ力遠心力との力のつり合いより、
 ・・・E

円運動する荷電粒子が周回する時間は、()と同様に、円周の距離速さで進む時間として、
電荷が同一地点を単位時間回通過するので、電流、即ち、単位時間に通過する電荷量は、
 (電流・オームの法則を参照)
......[
]
() 半径rの円を貫く磁束は、磁束密度と円の面積の積となり、
時間の間に磁束密度だけ増加すると、磁束の増加分は、
 ・・・F
円環に誘起される起電力の大きさは、電磁誘導の法則より、
 (磁束密度を増加させているのでであり、)
......[
]
() 一様な電場Eについて成り立つ公式: (電位・電圧を参照)より、円環上の電場の大きさは、一周するときの電位差を一周の距離で割って、

......[]
() 誘導電場から荷電粒子が受けるの大きさは、 (電界を参照)
時間の間に荷電粒子が受ける力積の大きさは、
これを運動量の変化に等しいとおいて(運動量の原理を参照)
 ・・・G
Eより,また、Gよりとなるので、時間後の速さは、

......[]
()  時間後のローレンツ力遠心力合力は、中心方向に、
 (2次の微小量として無視する)
 ( E)
 ( G) ・・・H
()
......[]
() ()より、荷電粒子に中心方向にが働くので、軌道半径は小さくなります。
B ......[]
2 題意がとりづらいですが、「の関係式を求めよ」ということは、Fの関係が成り立たないと考えよ、ということです。従って、Eよりですが、r一定でに増加するときの運動量の増加量は、Gではなく、
とするべきです。
このとき、
()のHは、
となるので、時間後においても、ローレンツ力遠心力のつり合いが成立しています。
磁束の増加による起電力の大きさは誘導電場の大きさは,荷電粒子が誘導電場から受けるの大きさは,荷電粒子が受ける力積の大きさは(Fを使っていないことに注意してください),これと運動量の増加量を等しいとおくと、
......[]
3 問2によると、磁束の増加分は磁束密度の増加分に円の面積をかけたものの2倍になっていますが、こうなるためには、円の中心に行くほど磁束密度が大きくなっている必要があります。従って、ベータトロンの磁極の断面形状は、(b) ......[]


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